北国の春
日に日に蕾が膨らみを増し、春支度をしている植物たちに目を細める今日この頃。
花屋さんの蝋梅や啓翁桜なども、明るい季節が近づいていることを教えてくれます。

家のベランダの沈丁花の蕾が一つ、もう開きかけています。
毎年楽しみにしているのですが、どうしても来週まで咲かないで欲しいのです。
もうちょっと待って!まだダメ〜!と念を送っていました。
私が訪問診療で診察をしている神経変性疾患のTさまは段々と症状が進み、首から下は殆ど自分で動かすことができません。
いつもお部屋で寝たきりですが、雪の降りしきる窓に目線を向けています。
日によっては会話も難しいこともありますが、訪問すると目をキラキラさせて『こんにちは。』と挨拶してくださいます。
どうですか?と聞くと『・・・変わらない。』
何か、辛いこととかはある?
『あるよ・・・。たくさん。』
ああ!なんてバカな質問をしてしまったのだろう・・・
あるに決まっています。自分の意思で動くこともままならず、長く喋ることさえ難しく意思疎通にも困難があり、治ることのないこの病気と付き合う他ない毎日なのに。
辛くないなんてこと、ある訳がありません。
そうだよね、ごめんね。辛いことだらけだよね・・・
体も凝ってるでしょう?と聞くと『うん』と。
時にストレスが溜まりイライラが爆発してしまうほどなのです。
いいよ、たまにはわがまま言って。して欲しいことがあったら言ってね。
しばらく看護師さんと一緒に体をさすりながら、あれこれお話しします。
外はもう雪ばっかりだねえ。青空が見えるといいのにね。今日は寒いんだよ。マイナス10度ですって。
そんな雑談をして退室する時に、Tさんが元気でいてくれて嬉しいよ、ありがとう。と言うと、
『ありがと。また来る?』
と、なんとも言えない穏やかな表情で仰います。
来るよ!今度会う時には、沈丁花の枝を持って行こう。
灰色の空と降り続ける雪を映す窓辺に。
まだ先の春を、一番に届けたいと思っています。

この三単語だけで心を撃ち抜かれそうになるのは私だけでしょうか・・・